このサウンドカードは設計不良か?

ATC 6631W
    atc6631w case

atc6631w  ATC-6631Wは,YamahaのオーディオチップYMF-719とQSOUNDのDSPチップを使用したハードウェア・ウェーブ・テーブルMIDIをサポートしたISAのサウンドカードです。ハードウェア・ウェーブ・テーブルMIDIを搭載していない型番が6631Dの姉妹品もあります。どちらもYmersionというYamahaオリジナルの3Dエンハンス機能を持っており,さらにドライバソフトはどちらもソフトウェアウェーブシンセサイザー機能をサポートしています。

ymf-719
Yamaha OPL-3 YMF719  
オーディオチップ
dsp & rom
左:MIDIインタプリタDSP
右:Wave Table ROM(1MB)

 ATC-6631Wは,ハードMIDI機能付きながら5,000円程度の価格で出回っています。私は,日本橋の「TwoTop」で4,800円(平成9年10月)で購入しました。ATC-6631は,ショップではノーブランドと表示されている場合が多いのですがマザーボードの製品でも有名な「A Trend」の製品です。

 このカードもすんなりと動いてくれませんでした。付属のドライバーソフトやアプリケーションソフトをインストールし,ミキサーやWAVEの録音・再生,ライン入力,CD入力の動作確認を順次行い,本カード購入の一番の目的であるハードウェア・ウェーブ・テーブルMIDIの動作確認の所でつまづきました。

 「コントロールパネル」->「マルチメディア」->「MIDI」->「YAMAHA OPL3-SA MPU401のMIDI」と設定を進め,オーディオアプリケーションでMIDIファイルを演奏させるのですが,スピーカーからは何も音がでません。ドライバーソフトの再インストールやカードの装着の確認など,一応考えられることを一通りやって見たのですが駄目でした。

 もうどうにでも慣れとカード上のDSPチップのあたりを手で触れてみると,なんと数秒間鳴るではありませんか。手で触れる度に数秒間鳴るのです。どうも水晶発振回路が不安定な感じがします。初期不良2週間の期間内ですので,「TwoTop」のサポートに持ち込みました。調べるまでもなく次のような返事です。
「相性の問題かも知れませんね。新品と交換しましょう。交換したカードも同じ症状が出れば相性の問題でしょう。もし直れば今日お持ち頂いたこのカードの不良ということになりますね。とにかく交換しますので試してみてください。」
 交換した新品カードをマシンにセットしテストです。結果は同じです。やはりDSPチップのあたりを手で触れた時に数秒間鳴るだけです。果たして,TwoTopのサポートが言っていた相性の問題ということになるのでしょうか?どうにも腑に落ちない現象です。

 取り合えずサポートの言う相性の問題なのかどうかを解決するために,別のマシンにカードをセットしました。結果は同じです。相性などではなくカードそのものに不具合があるようです。前回のカードも含め新品のカード2枚が同じ症状を見せるということは何かありそうです。

 再度カードを交換してもらっても同じであろうことは目にみえています。何よりもサポートが疑わしき目で私をみるのではないかと思うと交換に足を運ぶなんてとてもそんな気になれません。



 カードのどこが一体不具合なんでしょうか?原因が分かれば何とかなるはずです。まずは原因究明ということで,DSPチップ回りのどこに手を触れたら音がでるのか調査しました。まずは水晶回りから始めチップから出ているピンを順に全て触ってみましたが,なかなか場所を特定できません。

 カード上のパターンを表側,裏側よく眺めてみると,IDEのCD-ROMドライブ接続用のコネクタ取り付けホールの1番とMIDIドーターボード接続コネクタ取り付けホールの26番,ならびにDSPチップの17番ピンとがパターンで繋がっています。そしてこのパターンはこれら3つの信号を接続するだけで他にはどこにも接続されていません。IDEコネクタの1番ピンの信号は負論理のリセットです。DSPの17番ピンもおそらく負論理のリセット端子と思われます。つまり,DSPチップのリセット端子がカード上のどこにも接続されていないということになります。

 負論理のリセットですから,リセット端子がチップ内部でプルアップされているなら問題ありません。プルアップされていないなら問題です。端子の電位は無電位の状態にあるわけですからDSPチップは常にリセットがかかった状態にあったとしても不思議ではありません。手で触れた時に鳴るのは,ノイズによって一瞬端子がハイ電位となりリセットが外れるからと推測できます。

 ここまで分かればまず確認です。動かぬ証拠として,DSPチップの17番ピンに抵抗を通して+5Vを接続しました。案の定,見事音が鳴りました。+5Vに接続している限り安定して音が鳴ります。接続を外すと駄目です。

 次に恒久的な処置を考える必要があります。マシンの電源を投入した時やリセットした時にはカード上のDSPチップもリセットされなくては困ります。CRタイマーの遅延回路を通して+5Vを接続する方法もありますが,もっと他に何か手はないのでしょうか?

 カード上には他にもチップが搭載されています。ISAバスからのリセット信号を受けるカード自体のリセット回路がどこかにあるはずです。ISAバスのリセット端子から逆にパターンを追いかけました。ISAバスのリセットは正論理です。これを負論理に変換するためのトランジスタを1つ使ったインバーター回路が見つかりました。このトランジスタのコレクタ端子をよく見てみると+5Vに接続された負荷抵抗が一つ接続されているだけです。こことDSPチップのリセット端子を接続すれば問題は解決です。ジャンパー線で接続しました。これで何も問題なくハードウェア・ウェーブ・テーブルMIDIが鳴ってくれるようになりました。


DSPのリセットとインバータ出力を
ジャンパー接続した

DSPのリセット(17番ピン)に接続
  

インバーター(TRのコレクタ出力)に接続
  




 リセットのインバーター用トランジスタのコレクタ出力がどこにも接続されていないということと,DSPチップのリセットがどこにも接続されていない,この2つのことから推測される事はカード設計の段階でこれらを繋ぐつもりのパターンを引き忘れたということではないでしょうか。いわゆる欠陥品といわれても仕方のない製品ということになります。

 私の場合は何とかしましたが,果たしてこのカードを購入したユーザーの何人の人がこれに気が付いているのでしょうか。案外,このカードのFMシンセサイザー(FMながらなかなかいい音を出します。さすがYamahaと感心します)による発音をハードウェア・ウェーブ・テーブルMIDIだと思い込んで使っているのではないかと推測します。



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