Technics ターンテーブル SL-1301の修理 2009.4.12


    ■SL-1301入手の経緯

     その昔、ターンテーブルは、TechnicsのSL-1501を使用していた。そのターンテーブルは、 既に廃棄してしまって手元にはないが、その取扱説明書だけは、今も大事に保存してある。

     取扱説明書は、SL-1501とその姉妹機であるSL-1301との共用の説明書となっている。 SL-1501は、マニュアル操作であり、SL-1301はフルオートだ。姉妹機だけに、 デザインや搭載されているトーンアーム、カートリッジは全く同じ。

     実は、当時、フルオートのSL-1301の方が欲しかったのだが、財布と相談してSL-1501を買ってしまった。 特に、SL-1501で不便と感じたことはなく、気に入ったターンテーブルであった。

     最近になり、ヤフーオークションで再入手するならば、フルオートのSL-1301の方が欲しいと 思い、SL-1301のジャンク品が出品されるたびに入札するのだがなかなか落札できないでいた。

     SL-1301は、未だに人気のあるターンテーブルのようで、ジャンクでも数千円近くも競り上がることがしばしば。 こうなるとすぐに諦めて次の出品を待ってしまうのでなかなか手に入らない。

     一万円近くする動作品なら誰とも競争すること無く簡単に落札できるのだがそれは自分の意に反する。 やはりジャンク品を安く購入して修理を楽しみたいのだ。

     先日、SL-1501とSL-1301が同時出品された。SL-1501が3,000円、SL-1301が1,000円、どちらもカートリッジ 付きであった。これはもうSL-1301に勝負するしかない。いつものように競り合いを覚悟していたら偶然にも誰とも 競り合わず、出品価格の1,000円であっさりと落札できてしまった。


    ■ジャンクのSL-1301

     落札したSL-1301だが、ジャンク理由は、出品時の説明によると次のようであった。


       ・電源を入れてレコードの再生回転がおかしいようで音声に歪があります。(33/45回転共)
       ・アームのオートも狂っています。
       ・カトリッジの針は保証外です。

     故障箇所を予想して見る。回転不良は、ダイレクトドライブの制御回路の不良だろう。電解コンデンサの劣化か 、それともトランジスタ不良か、いずれにしても電子部品の故障は間違い無いところ。アームのオート動作不良は、 メカ機構のグリス固化か、あるいは、ガタつきでも起こっているのかも知れない。 カートリッジの針は、ありさえすれば、別に不良でも構わない。

     このターンテーブルのカートリッジは、今でも新品で手に入れることが出来るらしい。本格的にレコードを聴くならば 交換も必要だろうが、修理のための動作確認さえ出来るのならば、針先が磨耗していようが錆びていようが、 別にどうでもよい。何しろ、自宅には、レコードなるものは、もう一枚も残っていない。動作確認するには、まずは、 ジャンクのレコードが必要だ。

     さて、出品者からSL-1301が送られてくることになり、早速、会社帰りに中古レコードショップに立ち寄り、33回転の LP一枚と45回転のEP一枚を購入した。どちらも一枚300円の古いレコードだ。

     届いたSL-1301は、経年相応の汚れ具合であった。アルミ部分の錆びは見られないのが幸い。汚れを落とせば綺麗に なるはずだ。

     ゴムシートやカートリッジ、レコード針等、一式揃っているが、肝心のレコードが手元に無い。
    テスト用に急遽中古レコードを購入した。
     クォーツロックの状態を示すストロボ表示窓  電源ボタンと回転切り替えボタン
    45回転切り替えボタンは反応が悪い
    左角が汚れている

     ターンテーブルには若干の錆がちらほら見える  確かにSL-1301だ。  トーンアーム回転部
    アームクランパーもキューイングレバーも動作はスムーズだ。

     早速に動作確認を行う。フルオートのターンテーブルなんて、初めて触るのだから操作が判らぬ。 保存しておいた取扱説明書の操作方法に従い、まずはトーンアームの針圧調整などを行う。LPレコードをセットし、 その後、おもむろにスタートレバーを操作してみる。

     ゆっくりとトーンアームが持ち上がり、レコード板の方へと動き出した。レコードの外周部に落ちるのかと思ったら、 そのまま通り越して、レコード内周部分まで一気に移動してしまった。その後、またアームが戻りだしたので、どこで 止まるのかと眺めていたら、レコード外周を越えた所で止まり、アームが降りかけたので、慌ててマニュアルで レコード外周の音溝に落としてやった。

     トーンアームが動き出したところで、既にレコードは回転を始めており、カートリッジがレコードの音溝を辿りだした。 カートリッジ付近から機械的な振動音が聞こえてくる。これなら針先は十分だ。アンプにはまだ接続していないので 再生音の状態は判らぬ。

     レバーをストップに倒すと、アームが自動的に持ち上がり、クランパーの位置まで自動的に戻り、 レコードは回転を停止した。なかなかに感動的なシーンである。修理前の動作確認(動画7.8MB)

     ターンテーブルに付属のオディオケーブルで、KA-7300のPHONO1に接続し、再度テストを行って見る。 やはり再生音がおかしい。左隅にあるストロボ表示も安定しないで流れている。

     出品案内にあったとおりだ。


    ■分解・清掃と修理

     別のオーディオ機器の修理に時間を取られ、一月余り経ってから、SL-1301の修理を始めることとなった。 分解の前にもう一度動作確認を行ってみたところ、アームの動作は相変わらずだが、ターンテーブルが正常に回転した。 直ってしまったかと思ったが、暫くするとまたおかしくなりだした。電子回路の不良は確実なようだ。

     取りあえず、分解と清掃を行うことにする。ターンテーブルを外し、上面シャーシーと下面シャーシーを分離する。 トーンアームの動作を司るメカ部の金属部品や樹脂部品を一つ一つ取り外し、付着したグリスや硬化した油を拭き取っていく。

     ほとんどの部品は、滑らかに動作するのだが、樹脂部品の一つであるレコード盤の大きさを検出するアームが固着し、 回転不良となっていた。シャーシー上面にあるレコード盤セレクタ(17cm/25cm/33cm)のカムと位置合わせが出来ず、 動作不良を起こしていたようだ。

     ターンテーブルを取り外す。
    カートリッジは傷つけないように外してある。
     回路カバーを外す。内部にはうっすらと埃が積もっている。  ダイレクトドライブ制御基板
     3個のIC(AN640,AN660,DN860)と20個ほどのトランジスタ
     14個ある電解コンデンサは全て交換することにした。

     上部シャーシーと下部シャーシーを分離する。
    こちらは下部シャーシー。
     上部シャーシー裏側。
     電子回路はこちらに取り付けてある。
     左側にあるアームはスタート/ストップのスィッチアームだ。こちらの動きもスムーズだ。
     下部シャーシーからトーンアーム部分を外した状態。

     メカ部分の分解を進めて行く。
     これが問題のあったアーム。油が固化し固着して回転不良を起こしていた。
     電子回路部分も分解して清掃を行っておく。  脚部のパーツも分解して清掃をする。

     メカ部分は全て機械式であり、グリスの再塗布と再注油を行えば元に戻るはずだ。組み立て直して動作確認を行うと、 トーンアームの位置がぴたりと決まった。これでメカ部の修理は完了だ。

     ターンテーブルの回転不良は、その動作が不安定なことから、経年による電解コンデンサの劣化と判断し、 14個ある全ての電解コンデンサを取り替えることにした。


     電解コンデンサ交換後の基板。  取り外した電解コンデンサ。

     新品の同電圧・同容量の電解コンデンサに全数交換した後、動作確認を行う。予想通りに正常に回転する。 夕刻から就寝するまでの数時間、エージングを兼ねてずっと回転させておいた。この間、特に問題は無かった。

     翌日、再度確認してみると、回転不良を起こす。シャーシー左隅にあるストロボを見ていると、 回転がロックしたかと思うとすぐに外れ、またロックしたかと思うとまたロックが外れる。これの繰り返しだ。 電解コンデンサの交換だけでは駄目なようだ。

     基板上には、3個のICと20個あまりのトランジスタが搭載されている。 水晶の発信周波数を分周するIC、位相・速度制御を行うIC、この2個のICでPLL回路を構成しているものと思われる。 もう一つは、ダイレクトドライブモーターのドライブ用のICだ。

     分周ICの傍にある半固定抵抗を少し時計回りに廻すと回転がロックした。

     不具合状況から判断するに、これらのICはまず問題ないと思われる。フェーズロックドループのループゲインが 不安定となっていることが原因なような気がする。トランジスタの不良を疑い、回路図が無いので適当に当たりをつけて、 トランジスタを順番に取り外し、壊れていないか確認を行って見た。手間の要る作業であったが、結果は全て異常なし。

     次に、基板上にある3つの半固定抵抗を弄くって見ることにした。基盤上に「TRACKING」とシルク印刷された 半固定抵抗を少し廻してみたが回転不良は直らない。 次に、水晶発信を分周しているICの傍にある「VS」と印刷された抵抗を適当に調整してみたところ回転が安定するようになった。

     どこかの部品が壊れたというのではなく、経年により回路を構成する部品の定数がそれぞれに微妙に変化し PLLが不安定となったということだろう。ともかく半固定抵抗の調整のみで回転不良は直った。

     その後は、回転不良が起きることもなく安定動作を続けている。SL-1301の修理はこれで完了だ。

    修理後の動作確認(動画10MB)
     背景雑音は窓際からの雨の音だ。