確率計算上は同じでも 2003.5.15

     電車の吊り広告に「ささやかな運だめし」のキャッチコピーで宝くじの案内が出ていた。これを見ていて思い出した。生きていく内には何度か、大事な事を、くじ引き等で決めなければならない場面がある。方法は、じゃんけんやあみだくじ、色々ある。運だめしが人生を左右するといっても良い時がある。

     今から十数年前、建て売り住宅の抽選会に参加したことがある。今住んでいる自宅の近くの公園のそばにある建て売り住宅がいたく気に入った。申込者が10人もある。当然抽選となった。どんなふうに抽選するのか、興味津々で抽選会に臨んだ。申込者の名前を書いた札みたいなものを主催者側が一つ引くか、申込者に1番から10番までの番号を割り当て、主催者が当選番号を一つ引くか、まぁそんなものだろうと想像していたが、そうではなかった。

     人の手が入るぐらいの大きさの丸い穴が空いた四角い段ボール箱が用意され、そこに、外れの白いボールが9個、当選の赤いボールが1個、放り込まれた。そして、グルグルと箱を振り回して掻き回した後、居並ぶ申込者に「順番にボールを引いて頂きます。当選の赤いボールが出た時点で抽選は終了します」、と説明があった。私は、数番目に引く予定であったが、順番が来る前に、先に引いた人が赤いボールを出してしまい抽選に外れてしまった。

     私が想像していた抽選方法では、主催者側に不正を行える余地があり、外れた人からクレームが出る可能性もある。それでは困るという事から、申込者参加のこのような方法が採用されたのかも知れない。それにしても、この方法は、申込者全員に対して公平な方法なのだろうか。外れの白いボールを引いた分けでもないのに外れてしまった私としては、何か釈然としないまま、その会場を後にした。

     自宅に戻ってもまだ釈然とせず、それではと確率を計算して見ることにした。これで皆が平等なら納得せざるを得ない。まずは、私が想像していた主催者が当選者を決定する方法だが、これは単純に、全員が1/10の当選確率であることは言うまでも無い。

     次に、ボールを順番に引いて行く方法だが、まず最初に引く人の当選確率は、10個のボールの中から1個の当選ボールを引くので1/10であることは簡単に分かる。では、2番目の人の場合は、どうか。まず2番目の人が引けるのは、最初の人が外れることが条件であり、そして、2番目の人が引く時には、箱の中には9個のボールがあり、1個の当選ボールがある。最初の人が外す確率は、9/10、2番目の人が当たりを引く確率は1/9、この2つを乗じて、9/10x1/9=1/10、となり、2番目の人の確率も結果して、1/10と最初の人と同じとなる。3番目の人は、最初の人が外す確率9/10、2番目の人が外す確率8/9、3番目の人が当たりを引く確率1/8の3つを乗じて、9/10x8/9x1/8=1/10と、これまた同じとなる。以下同様に考えていけば、全員が1/10の確率であることが分かる。

     確率計算上は、全員が1/10で公平であることが分かった。取り合えず、その当時はそれで自分を納得させた。あの抽選に外れたおかげで、今の所に住まえているので良かった訳だが、あの当時の釈然としない思いはなんだったのか、今一度振り返って見て、こんなふうに考えて見た。

     主催者が決定する方法

        全員が1/10

     申込者参加型
        1番目の人 1/10
        2番目の人 9/10x1/9
        3番目の人 9/10x8/9x1/8
        4番目の人 9/10x8/9x7/8x1/7
        (途中省略)
        10番目の人 9/10x8/9..... 1/2x1/1

     主催者側が決定する方法も申込者参加型の方法も、結果の確率は、全員が1/10と同じな訳だが、確率計算式が示すとおり、そのプロセスに違いがある。結果だけ見れば同じでも、式が示している違いを考えて見る必要がある。主催者が決定する方法は、全員の当選確率は同じで、有無を言わさずに当選者が決定する。参加型はといえば、先に引いた人の結果次第というか、結果に左右される。順番が回ってきた時の当たりを引く確率は、後の人程高くなる。

     最初の人と最後の人を比較してみよう。最初の人は、当てるにしても外すにしても箱の中に手を入れて、がちゃがちゃボールを掻き回し、一個のボールを拾い上げるという行為を実際に行う。結果に対して納得しやすい。最後の人はどうだろうか。外れるのも、当てるのも全て他人まかせである。一切、手を下すことなく結果が決まる。9人が外してくれて、やっと当選となる。あなた任せの世界、面白いはずが無い。10番目の人が当てる確率は、皆と同じ1/10のはずなのだが、現実には、ほとんど当たるなんてことは無いように思えてしまう。

     ボールを引いて外れた人は、自らが外れを引いたという能動的な外れであるが、先に引いた人が当たりを出して、くじを引かずして外れとなった人は、受動的な外れである。ここに人間としての心情が働く。いわゆるくじを引くチャンスが平等ではないと見えてしまうのである。確率計算上では同じでも、一番最初にくじを引く人が、当たりの確率は低くとも、誰よりも真っ先に当たりを引くチャンスがあることは、まぎれもない事実。計算の上では、同じと分かっていても、ほとんどの人が、一番先か、2〜3番目に引いて見たいと思うのではなかろうか。