東京での単身赴任生活を送っていた時の事。コーヒー豆を切らしてしまい、近くのドトールコーヒーに買いに出かけた。 さぁ、飲もうと封を切って気が付いた。袋の中には確かにコーヒー豆が入っているが、豆のまま。まだ挽けていない。いつも妻が購入して送ってくるコーヒーは、既に挽かれたもの。それにすっかり馴染んでしまって、袋の中には、挽いた粉が入っているものと思い込んでいた。自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。 その時、コーヒーショップの器具売り場で見かけるハンドル付きの手回しミルの姿が脳裏をよぎる。あれを一度体験してみたいと思った。 そこで、翌日、会社近くの東急ハンズに出向いた。電動、手動、色々ある中、挽いた豆の粉が、ミルの下に取り付けたビンの中に落ちて行き、そのまま保存可能な構造になったものを買い求めた。飲む分だけを毎回、毎回挽くのも面倒だ。これなら一気に挽いておける。 組立説明書を見ながら、ハンドルやギヤを組み付けて行く。ネジの締め具合で粉の大きさを変えられるようになっている。逆回しをすると刃が傷むので気を付けろとの注意書きに少し慎重になる。 初めて知るミルの構造に、ふ〜ん、ほ〜、と、感心してしまう。こんな小さな器具にも先人の知恵が凝集されている。久しぶりの新鮮な驚きがちょっと嬉しい。 ハンドルの取り付いた上容器に、コーヒー豆を少し入れ、グルグルとハンドルを回して見る。手動だけに、なかなかに味わいがある。強く回せばザリザリと挽けて行く感触と音が気持ち良い。何よりも挽くとともに、部屋に充満してくるコーヒーの香ばしい匂いが、何とも言えない。後で飲むコーヒーもさぞやうまいことだろうと想像する。 東京の大都会の喧騒の中、小さな部屋で無心にコーヒー豆を挽き、充満する香ばしい匂いに包まれる時、たまには、こんな無駄な時間を持つのも大事な事なんだなと思ってしまう。まさに至福の時である。 |