PC−9801RX改造記
1.改造の可能性の検討

 FMV466D3(富士通のDESKPOWERシリーズマシンの95年2月生産モデル)のマザーボードをPC−9801RX(以下98RXと呼びます)の筐体内に納めるにあたっては,次の検討が必要でした。

(1)マザーボードのサイズが98RXのケースサイズに合致するか?

(2)ライザーカードを含めて各種拡張アダプタが納まるか?

(3)DOS/Vマシンとして最低限必要なFDD,HDD,CD−ROM(これは必ずしも必須ではないでしょう。)がケース内に納まるか?

(4)98RXの電源は,DOS/V用として流用可能か?

(5)98RXのケース加工はどの程度必要か? またそれは自分の力で可能か?


図-1

 以上5点について検討,(1)項〜(3)項はマザーボードや,各種パーツ,98RXのケースの寸法を実測しました。特に問題になりそうな要件はありませんでした。部品の置く場所を工夫すればなんとか98RXのケースの持つ容積内に納まりそうです。技術的な問題はありません。工作の腕次第という所です。

 次に(4)項の電源ですが,まず電源容量は98RXのケース裏面に張り付けられた製品ラベルにより65W(MAX135W)となっていますので問題ありません。最近のDOS/Vマシンの最小システム構成ではこれで十分動作可能のはずです。

 問題は電源種別です。DOS/Vマシンの電源ユニットからは,+12V,−12V,+5V,−5Vの4種ともう一つパワーグッド信号が出ています。ところが,98RXの電源ユニットからは,+5V,+12V,−12Vしか出ていません。マザーボードとの接続コネクタは,取り替えれば良い訳ですが,−5Vとパワーグッド信号がないのは問題です。

 最後にケース加工ですが,前面と裏面の工作が必要です。


前 面

 98RXは5インチFDD2基内蔵型ですのでケース前面には,5インチディケットを挿入するスロットが2つ空いているのみです。今回の改造では,3.5インチFDDとCD−ROMドライブを取り付ける計画ですのでこれらの挿入用の穴をあける必要があります。ケース前面はABS樹脂製のカバーになっていますので穴あけ加工は比較的容易と思われますが穴あけ精度が重要です。一旦バカ穴でもあけようものなら取り返しがつきません。穴あけ工作は慎重に取り組む必要がありそうです。

裏 面
 ケース裏面ですが,こちらの方は,具合良いことにCバス拡張カード取り付けスロット位置に,DOS/V用の拡張アダプタのコネクタ類の取り付け位置がきますので加工の程度はわずかで済みそうです。とはいうものの裏面は0.5mm厚のスチール製です。プラモ工作用の工具ではちょっと歯が立ちそうにありません。




2.電源の調査・改造

(1)−5Vの製作
 98RXの電源ユニットからは−5Vが出力されていません。これをなんとかしなければならないわけですが,どうしょうかと悩んでいる時,ふと疑問が湧いてきました。−5VがDOS/Vにはあってなぜ98RXにはないのか。ひょっとしてDOS/Vも本当は−5Vなんて不要なのではないかということです。

  論より証拠とばかりに,別のマシンの電源をFMVのマザーボードに接続し,−5Vを外してテストしてみると何の問題もなく動作します。これで一件落着といいたいのですが,あくまでも今ある手元の機器でのテスト結果です。今後購入するであろうパーツ(中古も含めて)が−5V不要であるという保証はありません。それと,やはり改造する人間のこだわりとして,−5Vをなんとかしたいものです。

 元々−5Vは規格上大した電流容量は入りません。単に−5Vの電圧が出れば良いと割り切れば−12Vから3端子レギュレータのIC一個で−5Vを作ることができます。
 結果として右図のように3端子レギュレータのICを一個購入し電源ユニット内に組み込みました。


(2)パワーグッド信号
 今までパワーグッド信号なるものが何かなんて考えた事がありませんでした。DOS/Vマシンを自作した経験があっても,電源なんてものはコネクタを接続するだけです。ところが今回は勝手が違います。DOS/V専用の電源ユニットを購入する手もありますが,DOS/Vパーツは電源も含めて規格品です。98RXのケースに納まるわけがありません。自分でこの信号を作るしかありません。

 そこで取っ掛かりとして別のマシンの電源ユニットから出ているパワーグッド信号を調べて見ました。テスターであたって見ると+5Vが出ています。なんのことはない+5Vをパワーグッドに接続すれば良いのだと早合点,+5Vをマザーボードのパワーグッド信号に接続し通電テストを行ってみたのですがボードは動きません。

 やはり,きちんとパワーグッド信号が何かを調査しなければなりません。ところが説明資料がなかなか見つからないのです。DOS/V自作のマニュアル本なんかを調べても電源ユニットの回路説明を書いたものは皆無です。

 大きな書店をあちこちと歩き回り,どうにか1冊だけ見つけました。「PC/ATハードウェアガイド」のような名前だったと思いますが,そこにパワーグッド信号は,電源スウィッチ投入後各種電圧が安定した後に,そのことを通知する信号である。また電源に異常が発生した際にもそれを通知する。とだけ簡単に書いてありました。書籍そのものは値が高く,他の記事は必要ありませんので立ち読みで済ませてしまいました。

 これだけの記事では信号回路がどうなっているか良くわかりません。思考錯誤と実験の結果,下図のようであることが判明しました。

改造を終わった電源ユニット
 仕組みがわかったので,これをどう実現するかです。通電中における電圧異常の所は無視し,電源投入の所だけを考えるならば,CRタイマーでなんとかなりそうです。

 今回の場合では,マザーボード側のパワーグッド信号端子はディジタルICの入力で受けていますので右図のような簡単な回路で出来てしまいました。



3.ケース加工

(1)98RXの分解
 何はともあれ,98RXをまず分解します。PC−9801は,さすがNECの製品だけあってやたらとネジや基盤固定用の小物金具がたくさんあります。今回は,再組立の必要はありませんから,目に付くところから適当にビスを外して行きます。再利用する部品は,ケースカバー,シャーシ,前面・裏面カバー,前面カバーに付属のLED,スピーカ,電源ユニット, 5インチFDD固定金具です。

 マザーボード,CPU基盤(80286,V30搭載),40M内蔵HDD,Cバス拡張カード取り付け金具,マザーボード固定金具等は,未練なく捨て去ります。

(2)前面カバーの加工
 5インチFDD2台が取り付けてあった空間をカットします。裏側からマジックペンでマーキングしドリルやヤスリを使って慎重に穴空けを行いました。

(3)裏面カバーの加工
 FMVのマザーボードの通信用コネクタやプリンターコネクタがぶつかる所をヤスリでカットします。Cバス拡張カード取り付け枠の右側の一部もカットします。PC−98のキーボードならびにビデオコネクタの取り付け穴は裏側からプラ板で盲しました。
 Cバス拡張カード取り付け枠の所にFMVから外した拡張カード取り付け金具をビス止めします。開いた空間を埋める為,今回は透明プラ板を取り付けました。塗装がまだできていませんが,内部が透かして見えるのでこのままにしています。



4.CPUの換装
 FMV466D3に搭載のCPUは,Intel486DX2(33MhzX2)です。これを,AMD5x86−P75に換装します。AMD5x86は,33MhzX4の133Mhzで高速動作するIntel486互換のCPUです。実効的にはPentium75Mhzに相当するパワーを発揮します。
 CPUの換装については,一般的にはCPUへの供給電圧と供給クロックの周波数,倍率設定が問題となります。486DX2は+5V動作ですが,このCPUは+3.3Vで動作します。このためマザーボードのCPUソケットの電圧変更が必要となりますが,FMV466D3のマザーボードは自動で電圧変更してくれます。クロックについては,5x86にそのまま差し換えただけでは33MhzX3の100Mhzでしか動作しません。

 5x86は,外部クロックにたいする内部クロックの設定に3倍と4倍の切り換えをもっており,CPUピンに細工を行えば4倍の設定にすることが可能です。今回のマザーボードは,25M,33M,40M,50Mの4種類の外部クロックの設定を持っており,うまくすればメーカーの保証する133Mhzを越える150M(50X3),160M(40MX4),200M(50MX4)の高速動作をする可能性があります。

 各種動作モードをテストして見たところ,200Mhz以外は全て動作しました。その中でも一番パフォーマンスの高かった150Mhzで動作させることにしました。

 5x86-P75に換装した時のマザーボード側のクロック設定に関してメールで質問を受けました。その回答内容を参考に掲載しておきます。

5.ビデオカードの追加
 FMV466D3のマザーボードには,CLGD5434というビデオチップが搭載されていますので拡張アダプタとしてのビデオカードは無くてもかまいません。しかし搭載されているビデオメモリは1Mbのため,1024x768の解像度では256色が限界となります。このため2Mb以上のビデオメモリを積んだビデオカードを追加することにしました。


Vipper VLB 2MB
 大阪日本橋のソフマップ中古品コーナーにて,PCIバス対応のMach64とVLバス対応のViperを購入し動作テストを行いました。どちらもビデオメモリは2Mbです。

 結果としてFMV466D3マザーボードのPCIバスは外部クロックが33Mhzを越えると全く動作しません。このためVLバスのViperを使用することにしました。画面の発色などの美しさはMach64の方が優れているように思うので残念です。



6.パーツの組込


組み込み前のシャーシ

電源とマザーを組み込む

HDDを組み込む

FDDとCD−ROMを98のFD取り付け金具にセット

FDDとCD−ROMドライブを組み込む

ライザーカードをマザーにセット

拡張カードを組み込む

配線をして完了


7.Windows95のインストール

 パーツ類は全てDOS/V仕様品ばかりですのでWindows95のインストールに障害となるものは何もないだろうと思っていたのですが,残念ながらVipperVLBビデオカードのドライバインストールでつまずいてしまいました。
 Windows95CD−ROMに納められていたドライバはテスト版みたいなものでまともに動作しません。DiamondのWebサイトからダウンロードしたドライバも英語版しかなく動作自体には問題ないようですが,画面のプロパティを開こうとすると必ずディスプレィアダプタが正しく設定されていないとWin95が言ってきます。
 その後Linuxをインストールしましたが,Xwindowの方はP9000サーバーで問題なく動作しています。VipperVLBのチップはWeitek Power 9000です。


  戻る